Step.3 利用者視点でのニーズ把握

利用者視点で考えるという言葉は、あまりにも当たり前のことのように思うかもしれません。

そこで、最初に簡単なテストをしてみましょう。あなたが現在担当している業務について、考えてみてください。

まず、利用者の顔が、何人分思い浮かぶでしょうか。窓口サービス等で日々利用者に接する業務に従事する人であれば、すぐに数十名の利用者の顔が思い浮かぶでしょう。一方で、間接的な業務が中心の人は、あまり具体的な顔が思い浮かばないかもしれません。

次に、そのうち1人の利用者を思い浮かべてみて、その人のことをどこまで知っているか考えてみましょう。名前、住所、家族構成、職業、勤務時間、通勤経路、趣味、・・・。利用者からの相談業務に従事する人は詳細な状況を知っているかもしれません。しかし、多くの場合は、利用者がサービスを受ける瞬間の状況しか見えないので、あまり詳細な状況を知るチャンスはないかもしれません。

テストはこの2問で終わりです。どうでしょうか。意外と利用者のことを知らないということに気づいたかもしれません。でも、心配はいりません。利用者のことを知っていると思い込むよりも、利用者のことを十分に知らないと認識した上で、利用者の状況をしっかり調査することの方が何倍も重要なことだからです。

それでは、利用者の状況を把握する方法を見ていきましょう。

利用者のことを知る

【標準ガイドライン関連箇所:第3編第4章第2節】

民間企業が提供するサービスでは、利用者の人数を少なくても1日単位で把握し、週単位、月単位等で集計を行いながら利用者数の変化を機敏に察知しています。1日単位どころか、1時間単位、1分単位で利用者数を把握している企業も多いでしょう。例えばWebサイトで広告や販売を行っているサービスであれば、アクセスログを分析し、利用動向がすぐに把握できるように工夫しています。利用者数が、企業の収益に直結するからです。

行政機関が提供するサービスでは、利用者数を詳細に把握できているでしょうか。確かに窓口でのサービスであれば、1日ごとの利用者数を把握しているところも多いかもしれません。でも、システムの利用者数となると、アクセスログとしてシステム内に記録しているはずだけど、その集計結果を見たことがない、ということもありそうです。

しかし、行政機関においても利用者のことを知ることは不可欠です。民間企業であれば、サービスが悪い企業は自然淘汰されます。しかし、行政機関については基本的に他の選択肢がないので、サービスが悪くても利用者は使い続けるしかありません。だからこそ、行政機関は利用者の状況を知り、サービス内容が十分になっているか、改善すべき点がないかを自ら把握することがとても重要になります。

新しいサービス・業務を企画する際にも、まず利用者を知ることからスタートしましょう。

「どのような利用者が」「どこに」「どれくらい」いるのか、その利用者は「何のために」「どのように行動し」「何を求めて」いるのかを事実に基づいて把握し、情報を整理していきます。

なお、利用者とは、外部の利用者に限りません。内部の職員も利用者の1人です。職員自身が情報システムを利用してサービスを提供したり、様々な業務を実施したりするのであれば、その職員が業務を実施しやすいように十分な考慮を行うことが重要だからです。

どんな利用者がいるかを調べる

まずは、どんな利用者がいるのか、利用者の種類を調べるところがスタートです。一般的には、次のような分類から考え始めると考えやすいかもしれません。

利用者の分類の例

  • *サービスの利用目的による違い* サービスの利用の仕方で分類します。例えば、行政機関に証明書発行を求める直接的な利用者がいる一方で、その証明書を確認することで業務を行う間接的な利用者がいます。

  • 本人か代理人かによる違い 実際に手続等を行うのが、手続の主体となる本人か、それとも本人から委任を受けた代理人であるかで分類します。代理人による申請の場合は、委任状が必要になるなど必要書類や事務手続が異なる可能性があります。

  • 個人か法人かによる違い 個人と法人では手続の目的、内容、手段が大きく異なる可能性があります。例えば、企業等の法人が日常的に申請を行っている場合は、1つの手続ごとに窓口に来るのではなく、まとめて一括で申請を行っているかもしれません。また、申請のためのシステムを企業内で整備しているかもしれません。

  • 詳細属性ごとの違い 上記の分類に加えて、さらに地域別、世代別、世帯構成別など、ニーズの特性が異なるグループがあれば、詳細に分類することで個々のニーズを捉えやすくなります。

  • 事例4-1

    自動車登録検査業務における利用者分類

利用者の種類を把握する手法には、以下のようなものがあります。

利用者の種類を把握する手法の例

  • 現在のサービス・業務を利用している現場での観察

  • 現在使用している業務マニュアル、手順書等の確認による利用者の洗い出し

  • 業務データや各種ログ等の分析による利用者の洗い出し

  • 想定する利用者に対するインタビュー、アンケート

利用者を把握した結果の整理方法としては、定量分析と定性分析があります。

利用者の定量分析は、利用者を洗い出し、種類ごとに量、利用時間帯、拠点等の情報をまとめたものです。これらは効果指標の基礎情報になりますので、正確で詳細な情報を収集してください。

利用者の定性分析は、利用者の種類、特徴、満足度、要求事項等を収集しまとめたものです。個々のサービス・業務ごとに一覧を作るのではなく、利用者から見たエンドツーエンドの範囲を網羅した1つの表でまとめると良いでしょう。基本的には利用者1種類を1行として整理しますが、年齢や性別、拠点等の特徴ごとに細分化して詳細を把握することを推奨します。

利用者の人数を把握する

利用者の種類を把握することは比較的簡単ですが、利用者の人数を把握することは難しい場合があります。サービスの直接的な利用者であればまだ把握しやすいですが、間接的な利用者になると人数を正確に把握することは困難でしょう。しかし、正確でなくとも、大まかな規模感をつかむことは重要です。

利用者の人数を把握する手法には、以下のようなものがあります。利用者を十把一絡げにして合計人数を出すのではなく、利用者の種類ごとに人数を把握しましょう。

利用者の人数を把握する手法の例  (既存サービス)

  • 申請数、窓口対応数、問い合わせ件数等、業務で蓄積したデータからの推計

  • システムに蓄積したデータに基づく統計情報からの推計

  • 現場での利用動向や業務状況のサンプリング調査に基づく推計

  • 上記手法が取れない場合には、 一般的な統計情報に基づいた推計 (該当地域の対象世帯人口に対して一定の利用比率を掛ける等)

さて、利用者が既に存在するサービスについては上述のように人数を把握することができますが、新規に立ち上げるサービスでは利用者の人数を「予測」しなくてはなりません。

このような場合は、サービスの想定利用者を種類ごとに区分した上で、それぞれの利用者層に対して次のような手法を活用して人数を見積りましょう。

利用者の人数を予測する手法の例  (新規サービス)

  • 類似するサービスの利用者数からの推計

  • 利用者の最大人数を把握した上で、段階的な利用率の推計

  • 利用者へのインタビューやアンケート調査に基づく推計

  • 上記手法が取れない場合には、 一般的な統計情報に基づいた類推 (該当地域の対象世帯人口に対して一定の利用比率を掛ける等)

ここで気を付けてほしいことは、多くの人が、利用者数を楽観的に「多め」に予想するということです。新しいサービスを立ち上げる際に、サービスを立ち上げる側の人はどうしてもサービス自体への思い入れも含めて、サービスが数多くの人に利用してもらえることを想定しがちです。想定する利用者数が多くなるほど、対応する職員側の人数もシステム費用も増えていきます。サービス開始当初から一遍に多数の利用者数を想定して投資するのではなく、利用者を段階的に増やすことも含めて、適切な水準で利用者数を見積もるように注意しましょう。

利用者のニーズを理解する

【標準ガイドライン関連箇所:第3編第4章第2節】

利用者のニーズを理解するために必要なことは、想像や推測ではなく、調査です。

例えば、「利用者は、窓口へ来訪することを面倒に思っている」ことから、面倒ではなくしてほしい、というニーズがあるのではないでしょうか。本当にそのようなニーズが強いかもしれませんし、逆にそのようなニーズよりもっと本質的に困っていることがあるかもしれません。それは、調査をしてみないとわかりません。

実際に調査をしてみると、いろいろなことがわかります。例えば、窓口へ来訪することよりも、申請後の審査に長期間かかっていることに困っているかもしれません。この例については、実践ガイドブック「第2章Step.2-1 目標とする成果を見定める」で詳述しました。

また、一部の利用者から寄せられた意見・要望だけを確認して、利用者全体のニーズが把握できたと思い込んではいないでしょうか。実際は大半の利用者が全く異なるニーズを持っているかもしれません。もしも自発的に意見・要望を述べることはない多数の利用者が存在する場合、調査をしなければそのニーズを知ることはできません(全体を適切に把握する調査の仕方については、「Step.5-2-G. 精緻に効果を積算し、主要な効果を実感可能なものとする」を参照ください。)。

現場を知らない人の推測のみで目標を設定するのではなく、現場の流れ、利用者の状況を調べて、利用者の本当のニーズを把握することが最初の一歩です。

利用者のニーズから出発する

利用者のニーズを把握するには、具体的にどのような調査をすればよいでしょうか。サービスを提供する側は、どうしても「提供者側の視点」に立ちがちです。様々な利用者のそれぞれの立場でニーズを把握するための手法として、「ペルソナ分析」があります。

「ペルソナ」とは、サービスの典型的な利用者の、目的、意識、行動等のパターンを構造化し、利用対象者を仮想の人物として定義するものです。例えばサービスのターゲットを「会社員」と抽象的に定義すると、検討チームのメンバーそれぞれが思い描く「会社員」の姿が異なるため、チームとして判断する際にブレが生じてしまいます。ペルソナ分析ではもっと具体的に「氏名、年齢、性別、家族構成、勤務先、仕事内容、その他の詳細条件」等を設定します。このような具体的な利用者像をイメージしながら検討を行うことで、利用者が抱える課題や問題を浮き彫りにし、具体性の高いアイデアを創出しやすくなります。

「すべての人を万遍なく満足させようとすると、結局誰にも喜ばれない」という考え方があります。ペルソナ分析を使えば、具体的な利用者の具体的なニーズに基づいて、少なくともその利用者にとって喜ばれるサービスを検討することができます。

なお、ペルソナ分析も1つの手法に過ぎません。重要なことは、提供者側の視点ではなく利用者側の視点に立つことです。サービスを検討するための大前提として、利用者の立場でサービスを受けることを想像し、利用者のニーズがどこにあるかを考えてみてください。

  • 参考4-1

    ペルソナ分析

  • 注記

    タッチポイントとは、サービス提供者と利用者の間に存在するあらゆる接点のこと。サービスを申し込むWebサイト、サービスの受付窓口、コールセンター等がある。

エンドツーエンドで考える

行政組織は縦割りです。新たなサービス・業務を企画する人も、どこかの行政組織に属している以上、所属する組織の所掌範囲を意識せざるを得ないでしょう。

ただ、利用者にはそんな事情は関係ありません。関係する組織が1つであるか複数であるかには関係なく、手間は最小限に、サービスは丁寧かつ迅速に受けたいというのが利用者のニーズです。

利用者のニーズ把握を行うためには、自らが所属する組織の所掌範囲だけで個々のサービスや手続のみを切り取って検討するのではなく、利用者がサービスを受ける必要が生じた時の最初の行動から最後の行動まで(エンドツーエンド)の視野に立ち、他の行政機関や民間企業が担うサービスの利用まで含めた利用者の行動全体を一連の流れとして考えることが重要です。

  • 図4-2

サービス・業務企画の対象範囲の例

このような利用者の行動全体の流れを可視化するための1つの手法として、「ジャーニーマップ」があります。ジャーニーマップを用いることで、利用者の日常体験の中でどのように行政サービスが使われているかを可視化することができます。

  • 参考4-2

    ジャーニーマップ