第1章 本仕様書について
1-1 背景
自治体の情報システムは、これまで各自治体が独自に構築・発展させてきた結果、その発注・維持管理や制度改正対応等について各自治体が個別に対応しており、人的・財政的負担が生じている。特に人口規模が一定以上の自治体を中心に、同一ベンダのシステムを利用する自治体間でもシステムの内容が異なることが多く、クラウド上のサービスを利用する方式への移行の妨げとなっている。さらに、自治体ごとに様式・帳票が異なることが、それを作成・利用する住民・企業・自治体等の負担につながっている。
また、中長期的な人口構造の変化に対応した自治体行政に変革していくためにも、自治体の情報システムに係る重複投資をなくして標準化・共同化を推進し、自治体行政のデジタル化に向けた基盤を整備していく必要がある。
そうした問題意識から、自治体行政のデジタル化に向け、自治体の情報システムや様式・帳票の標準化等について、自治体、ベンダ及び国が協力して具体的な検討を行う場として、令和元年(2019年)8月から、総務省において、自治体システム等標準化検討会(座長:庄司昌彦武蔵大学社会学部教授)が開催され、さらに詳細な議論を行う場として分科会(分科会長:後藤省二株式会社地域情報化研究所代表取締役社長)が開催されている。
令和2年9月11日に住民記録システム標準仕様書【第1.0版】が公表されて以降、デジタル・ガバメント閣僚会議の下で開催された「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」における議論も踏まえ、令和2年12月25日の「デジタル・ガバメント実行計画」では、地方公共団体の主要な17業務について、システムの標準仕様を作成すること、地方公共団体の情報システムの標準化・共通化を実効的に推進するための法律案を令和3年通常国会に提出すること、標準化の目標時期を令和7年度とすること等が閣議決定された。このことを受けて、第204回通常国会では、標準化法が可決成立した。
標準化対象事務は、標準化法の趣旨を踏まえ、情報システムによる処理の内容が地方公共団体において共通しているかという観点等から、累次の閣議決定において示されてきた17業務に、戸籍、戸籍の附票及び印鑑登録事務を加えることを検討することとされた。また、手続におけるデジタル化が進むよう、押印についての考え方の整理や、電子署名の活用推進等が議論されているところではあるが、日本の法制度において印鑑登録は、重要な契約及び商取引における本人確認の手段として活用されるとともに、社会全体の法的安定性を維持する機能を今なお有している。こうしたことを踏まえ、印鑑登録システム標準仕様書(以下「本仕様書」という。)は、「印鑑登録証明事務処理要領」(昭和49年2月1日自治振興第10号)及び各種通知を基にして、「住民記録システム標準仕様書」を参考に、策定されたものである。
【第1.0版】公表以降に検討を重ねた論点のうち、ベンダの開発にとって早期に示すことが必要と考えられる論点、データ要件・連携要件等のデジタル庁が新たに提示した内容を踏まえた論点を中心に改定を行い、【第2.0版】を作成することとした。その後所要の制度改正等に対応し、現行仕様書に至っている。
1-2 目的
本仕様書は、標準化法第5条第1項に基づく地方公共団体情報システム標準化基本方針(令和4年10月)(以下「基本方針」という。)を踏まえ、同法第6条第1項に規定する基準に基づき、作成するものである。
1-3 対象
(1)対象自治体
本仕様書の対象自治体は、全ての市区町村とする。
なお、本仕様書における「市区町村」の区とは、特別区のことであるが、法令で指定都市の区及び総合区が市と、区長及び総合区長が市長とみなされる場合は、法令と同様の扱いとする。
また、指定都市においては、第3章 機能要件の中で示す4.1(印鑑登録)、4.2(職権抹消)、4.3(職権修正)、4.4(印鑑登録の廃止)、4.5(異動の取消し)及び6(印鑑登録証明書)については区を越えた処理を可能とする。
(2)対象分野
本仕様書が規定する対象分野は、おおむね各地方公共団体が条例に基づき実施している印鑑登録証明業務と対応しているが、必ずしも1対1で対応しているわけではない。例えば、発生頻度の低い印鑑登録原票改製通知や交付一時停止期間満了通知及び元々システムとは関係しない回収済印鑑登録証保管・廃棄は本仕様書の対象外とする。
(3)対象項目
本仕様書では、以下の項目について規定する。
・標準化の対象範囲(第2章)
・機能要件(第3章)
・様式・帳票要件(第4章)
・データ要件(第3章及び第5章)
・非機能要件(第6章)
・業務フロー(別紙1)
・ツリー図(別紙2)
以下の項目については原則として規定しない。ただし、カスタマイズの発生源になっている場合等についてはこの限りでない。
・画面要件
・ヘルプやガイドの具体的内容等、業務遂行に必須ではなく専ら操作性に関する機能
基本方針を踏まえ、このうち、機能要件、様式・帳票要件及び連携要件は、カスタマイズの発生源になっている部分であるため、本仕様書の対象とすることとした。また、機能要件、データ要件及び連携要件は、ベンダ間での円滑なシステム更改を阻害している部分であるため、本仕様書の対象とすることとした。さらに、デジタル社会の実現に必要な機能については、これらの要件の中に反映した。
なお、様式・帳票要件では、印鑑登録システムを標準化するという観点から、多くの自治体において印鑑登録システムから出力する様式・帳票(例:印鑑登録証明書、印鑑の登録に関する照会書)について規定することとし、多くの自治体において印鑑登録システムから出力するとは限らない様式・帳票(例:申請書)については規定しないこととした。
デジタル社会を見据えた対応
本仕様書は、これからのデジタル社会においてあるべき姿(電子化・ペーパーレス化)を視野に標準を設定するとしつつも、これからのデジタル社会においてあるべき姿にそのまま即したものには必ずしもなっていない。
また、これからのデジタル社会を見据えれば、実務やシステムの前提となる制度自体を見直すべきであるという考え方もあり得る。しかし、そうした制度自体の検討については、一朝一夕にできるものではなく、あまりにも現在の実務から遊離した仕様書となれば、実効性が失われる。
そこで、本仕様書としては、電子化・ペーパーレス化も含め、これからのデジタル社会においてあるべき姿を視野に入れつつ、現行制度の下で、多くの自治体が支障なく対応できるものについて、できる限り盛り込むこととした。
他方、デジタル社会を見据え、様々な社会環境の変化に対応するためには、本仕様書の作成後、実務やシステムの前提となる制度を随時見直していくことが重要であり、制度の見直しとともに本仕様書を改定していくことが求められる。
1-4 本仕様書の内容
(1)本仕様書の構成
第1章では、本仕様書の背景、目的、対象及び内容について記載している。
第2章では、標準化の対象範囲を記載している。
第3章、第4章、第5章及び第6章では、それぞれ、印鑑登録システムが備えるべき機能要件、様式・帳票要件、データ要件及び非機能要件について記載している。「(2)標準準拠の基準」にあるように、これらの章が、パッケージシステムが本仕様書に準拠するための判断基準となるものであり、言わば本仕様書の本体部分である。
第7章では、本仕様書において用いている用語について、解釈の紛れがないよう、定義している。
また、別紙に業務フロー及びツリー図を記載している。業務フローは、第3章で規定する機能要件が業務上どのように位置づけられ、有効に機能するのかについて自治体及び事業者の共通理解を促すため、それらに対応したモデル的な業務フローを示している。ここで示した業務フローは、実際の各自治体における業務フローを拘束するものではないが、現在の業務フローでは、本仕様書における機能要件どおりの機能で業務を行うことが難しいと考える自治体は、現在の業務フローを本仕様書に示す業務フローに寄せる(BPR)ことで、本仕様書における機能要件どおりの機能で業務を行うことが期待される。ツリー図は、印鑑登録に係る業務における機能要件の一覧性を高め、標準化の対象となる業務を明確化するため、業務フローにひもづいた形式で記載している。
(2)標準準拠の基準
本仕様書の対象は「第1章 1-3 対象 (2)対象分野」のとおりとしており、この対象範囲において定義すべき機能について、【実装必須機能】【実装不可機能】【標準オプション機能】の3類型に分類した。可能な限り3類型のいずれに該当するか分類をした上で、定義すべき機能の範囲内で分類されていない機能は、カスタマイズ抑制、ベンダ間移行の円滑化の観点から、実装不可機能と同様のものとして位置付ける。
パッケージシステムが本仕様書に準拠するためには、第3章、第4章及び第5章に規定する【実装必須機能】をいずれも実装し、【実装不可機能】をいずれも実装しないことが必要である。【標準オプション機能】は、実装しても、実装しなくても、実装した上で自治体が利用を選択できることとしても、いずれも差し支えない。3分類のいずれにも位置づけられていない機能については、原則【実装不可機能】として扱うものとする。ただし、自治体やベンダの創意工夫により新たな機能をシステムに試行的に実装させて機能改善の提案を行う場合であって、他の地方公共団体においても当該機能の必要性が高いと考えられるものについては、当該機能の取扱いを標準仕様書の作成・更新過程において検討することとし、必要に応じて標準仕様書に規定する。その間、実験的に実装を希望する地方公共団体は、費用対効果の検討結果を他の地方公共団体と共有することを前提とする等、標準仕様書の検討に資するよう取り組むこととし、実装は標準準拠システムと疎結合で構築する。
また、本仕様書に準拠しているかどうかは、「3(1)対象自治体」で示した指定都市、中核市等及び一般市区町村の類型ごとに判断される。特に明記しない限り、3類型全てに当てはまる要件として記載しており、必要に応じて、「指定都市においては、~~」、「(一般市区町村においては、標準オプション機能とする。)」のように記載している。
なお、実装必須機能のうち、法令上必ず使用しなければならない機能と必ずしも使用しなくても良い機能があり、個別に判断する必要がある。また、実装に当たっては、当然に実施要領等に沿った機能及び運用を満たす必要がある。
(3)想定する利用方法
標準化法第8条第1項では、「地方公共団体情報システムは、標準化基準に適合するものでなければならない。」とされており、本仕様書で規定された内容は、標準化基準として位置づけられる予定のものである。したがって、本仕様書については、
・今後、整備予定のガバメントクラウド上において、各ベンダが、本仕様書に準拠しているシステムを提供する
・各自治体は、本仕様書に準拠しているパッケージシステムをカスタマイズすることなく利用することを想定している。
自治体においては、人口減少による労働力の供給制約の中、システムについて十分な知見がなくても、負担なくシステムを利用できる必要がある。自治体としては、標準化後にシステム更改を行う際は改めて本仕様書に示した個別の要件を一々提示してRFI (request for information)やRFP (request for proposal)、さらにはFit & Gap分析を行って調達するのではなく、単に、本仕様書に準拠しているパッケージシステムであることを要件に付するだけで、カスタマイズをすることなく利用できることを想定している。本仕様書は、人口規模に応じて、本仕様書における機能さえあればカスタマイズなしで支障なく業務が行えるようになるよう、実装必須機能と実装不可機能をその理由とともに整理したものである。そのため、自治体内での検討や自治体・ベンダ間の協議の際に、仮に本仕様書における機能と異なる機能が必要ではないかという議論があった場合、限られた人員、財源の中で、果たして当該自治体だけ特別に必要な機能なのか、本仕様書が想定する業務フローを参照することで効率的な運用となるよう見直しが必要ではないか、という観点から、本仕様書における必要/不要の整理を知るための資料として参照することも想定している。
(4)本仕様書の改定
本仕様書については、制度改正時のほか、自治体やベンダからの創意工夫によるシステムの機能改善等の提案がある場合や新たな技術が開発される等デジタル化の進展等がみられる場合にも、関係者の関与の下で改定することを想定している。とりわけ、制度改正により本仕様書を改正する必要がある場合は、制度の施行時期を勘案して改定する。改定後の本仕様書に基づいて、ベンダがクラウド上で一括してシステムを改修することにより、制度改正等ごとに個々の自治体が個別にベンダと協議して改修を行う必要がなくなると想定される。
各自治体の調達仕様書の範囲との関係
本仕様書を用いることにより、印鑑登録証明事務を運用することは可能であり、本仕様書の対象範囲については本仕様書に記載された内容で調達する必要がある。
しかしながら、各自治体においては、住民記録システムと一体的に調達していることが多いことから、各自治体の調達仕様書の範囲と標準仕様書の範囲は必ずしも一致しないと考えられる。この場合であっても、各自治体の情報システムの調達において、本仕様書の範囲の業務について本仕様書に記載された内容で調達する限りにおいては、このような対応も許容される。
※ 例えば、オールインワンパッケージを採用している団体は、選挙人名簿や税務等の分野も併せて調達することになるが、その場合、調達仕様書の範囲が本仕様書の範囲と異なることは差し支えない。
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